養液栽培用語解説 イラスト版
遠藤 昌伸 (静岡大学 農学部)
養液栽培とは?
- 養液栽培(SoillessCulture)
- 培地として土を用いずに、作物の生育に必要な養水分を、水に肥料を溶かした液状肥料(培養液)として与えて栽培する方法.
- 土耕栽培(Soil Culture)
- 養液土耕栽培(Drip Fertigation)
- 培地として土も用いて,液肥と灌水併用あるいは培養液で無機養分を供給する方法.
養液栽培方式の分類
- DFT湛液水耕
- NFT薄膜水耕
- 固形培地耕
- 毛管水耕(浮き根式水耕)
- 噴霧耕
栽培システム
- DFT
- NFT
- DFT酸素供給
エアーサッカー
空気混入器.DFTなどのように培養液中の溶存酸素に依存する場合,溶存酸素濃度を増加させるために使用.培養液の循環時に空気を混入させる.
電磁弁
電磁石などを利用した電気的な開閉制御が可能な弁.
培養液の止水送水の制御に利用.
単純な開閉のみのものから流量調節可能な物と様々である.
溶存酸素
溶液(培養液)中に溶解している酸素濃度.溶液の酸素溶解度は小さく,通常では,最大でも1Lに10mg(10ppm)程度しか溶けない上,液温が高いほど溶けにくくなる.また,塩類を含む培養液では,少し低くなる.
根や培養液中の微生物の呼吸による酸素消費量は高温ほど大きくなるので,液温が高温となる夏季に酸素不足となりやすい.30℃での根の呼吸量は,根1g・1時間当たり0.2〜0.3mgなので酸素を供給しないと2〜3時間で酸素不足となる.
- 製品版の一例(日本オペレーター提供)
- 肥料混入ポンプ
- 手作り制御盤の一例
- 水位センサー
- EC,pHセンサー
- 流量計
科学万博で有名になった水耕トマトの木(協和ハイポニカ, DFT)
15,000 果実/ 株
点滴ノズル(ボタンタイプ)
点滴チューブ
ネタフィム
イスラエルの農業用灌漑資材の会社.流量の変動率が小さく信頼性が高い,点滴チューブや点滴ノズルなどが販売されている.
点滴ノズル(アロータイプ)
フィルター(写真はディスクフィルタ)
原水(用水)
養液栽培に用いる水のことで,井水・上水が用いられることが多い.ECが高い(0.4 dS/m以上)あるいは重炭酸濃度(80ppm以上)が高い原水は不適当とされるため,培養液の組成の調整,雨水の利用,砂ろ過装置,逆浸透装置による原水の純化などを行う必要がある。
原水の浄化:砂ろ過
サイズの異なる砂の層に透水して,砂の表層に生物活性の高いろ過膜が形成される養液栽培では,緩速砂ろ過システムとして,培養液除菌への利用が検討されている.
原水の浄化:電気透析法
原水に電気を通し,溶解している塩類を分離して塩類を特殊な膜に吸着させて原水の水質を改善する方法.
原水の浄化:逆浸透法(RO:リバースオズモシス)
溶液中の溶媒(水)は通すが溶質は通さない,半透膜の性質を利用して,塩分などの多く含む水質の悪い原水を浄化するシステム.ポンプで圧力をかけて,半透膜を通し,出てきた水を原水として利用する.
原水の浄化:イオン交換樹脂
イギリスのアダムスが発明.イオン交換性のある樹脂で,陽イオン,陰イオン用とあり,ビーズ状,膜状に加工したものがある.樹脂の容量が飽和したら再生処理する必要がある.
日射センサー
水分センサー
パプリカ ハイワイヤー
ハイ・ガター・システム(省力、管理容易、周年収穫)
地面の水平は不必要、掃除が楽、畝間の移動容易、目の高さに収穫果、株間定植が可能
ガター トラフ
トマト 低段密植栽培
バラ アーチング栽培
イチゴ高設栽培
培養液 Nutrient Solution
多量要素(NO3-N,NH4-N,P,K,Ca,Mg)や微量要素(Fe,Mn,B,Cu,Zn,Mo)を植物が吸収するのに最適な濃度で溶解させた溶液.
各作物ごとに,また原水の状態,作物の生育ステージ別に適した様々な培養液組成が考案されている(園試処方,山崎処方など)
⇒作物の生育に応じた肥培コントロールが可能
みかけの吸収濃度(n/w比)
山崎氏が提唱したもので,作物が吸収した肥料成分量を消費された養液量で除した値.
作物ごとに各要素のn/w比を算出すると,固有の養分吸収特性が分かる.
山崎氏は,n/w比の値から,栽培中の培養液の組成・濃度が比較的安定した山崎処方の培養液を発表した.
EC Electrical Conductivity 電気伝導度
培養液中の全溶質の濃度を示す.
電気の通りやすさを示すもので,溶けているイオンの量が多いほどEC値が高くなる.
単位:dS/m(デシ・ジーメンス・パー・メートル)⇒SI単位
= mS/cm (ミリ・ジーメンス・パー・センチメートル)
d(デシ) = 1/10, c(センチ) = 1/100, m(ミリ) = 1/1000
mS/cm = mS/(1/100)m =100mS/m = (100/1000)S/m = (1/10)S/m = dS/m
μ(マイクロ) = 1/10000001dS/cm(mS/cm) = 1000μS/cm
ppm(ピー・ピー・エム)
パーツ・パー・ミリオン
濃度の単位(百万分率)
1ppm
=1mg/1,000,000mg
=1mg/L
=1g/t
me/L (エムイー・パー・リッター,ミリ当量濃度)
イオン濃度の単位
e(イー=イクイバレント)=グラム等量
⇒グラム分子量を原子価で割った値
e/L = 1L中に1グラム等量溶けている濃度
↓(1/1000)
me/L = 1L中に1ミリグラム等量溶けている濃度
肥料は陽イオンと陰イオンの結合した塩の形であり,必ず陽イオンと陰イオンが当量で結合する.
mmol/L (ミリモル・パー・リッター, ミリモル濃度)
イオン濃度の単位
グラム分子量が1Lに溶けている濃度.
多くの作物ではpH5.5〜6.5が好適
ミツバやネギではpH4.5〜5.0が好適
M(モーラー) = mol/L
↓(1/1000)
mM(ミリモーラー) = mmol/L
⇒SI単位
pH
- pH
- 溶液中の水素イオン濃度を常用対数で1〜14にあらわしたもの