ハイドロポニックス 第23巻 第2号 要約
巻頭言:Take a Chance on Me(自分にかけてみる)
岩崎泰永
筆者の座右の銘の一つである‘Take a Chance on Me(自分にかけてみる)’を紹介し,農業をはじめてみたいと思う気持ちを支え,育てる仕組みの重要性について提言している。
内外のニュース:第66回日本養液栽培研究会・大阪大会について
中村俊洋
平成22年5月21日に第66回日本養液栽培研究会・大阪大会が大阪府立大学中之島サテライトで開催された.午前は特別講習会,午後は総会および研究会,夜には懇親会が行われた.午前は35名,午後は59名,懇親会は34名の参加があった.研究会のテーマは「もう一度学ぶ病原菌の話」で,養液栽培でしばしば問題となる水媒性の病原菌の生態から最近の事例紹介,青果物に付着する微生物の話など,病原菌に関する様々な情報が得られた.
内外のニュース:平成22年度園芸学会春季大会報告
伊藤善一
3月21日,22日に日本大学生物資源学部にて開催された平成22年度園芸学会春季大会の発表のうち,著者が参加したセッションから,養液栽培に関連した報告と今回,発表の多かった新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「Cの動態に注目した高生産性施設環境調節技術の開発」関連の報告について簡単にご紹介する.
内外のニュース:第2回APHEC上海シンポジウム2010に参加して
篠原 温
2010年6月2日~5日に開催された,第2回 アジア,韓国,日本,施設園芸環境調節シンポジウムの経緯や内容を紹介する.
内外のニュース:2009年韓国の養液栽培事情
山口智治
2009年末における韓国の施設園芸と養液栽培事情を紹介する.韓国の施設園芸面積は53,400ha,養液栽培面積は1,107haであり,生産されるパプリカ,トマト,キクなどは重要な輸出産品となっている.栽培方式は,養液栽培20%,培地栽培80%であり,培地はコイアーの利用が急増している.小型単棟ウォーターカーテンハウスおよび大型連棟パイプハウスでのイチゴ栽培の事例,および高麗人参の養液栽培システムについて述べた.
事例紹介:大規模パプリカ栽培
富田啓明
宮城県で1.2haの施設で年間230tの生産量をあげている有限会社リッチフィールド。自然に生かされ四季の移ろいを感じながら仕事ができる農業に魅力を感じ、大規模経営を夢見てようやく2005年に農業法人を設立した。現在ではオランダのパプリカ生産越えを目指し、日々奮闘している。そんな社長の想いと、想いを乗せた施設の概要が紹介されている。
事例紹介:JR東海グループの農業事業参入
庄司眞造
JR東海グループ会社へのより安全で、安心な食材の提供を目指しジェイアール東海商事(株)の農業参入の経緯、事業規模、施設概要の詳細が紹介されている。JR東海グループの「安全・安心」野菜ブランド のぞみ畑、あなたはもう口にしただろうか?
事例紹介:バラの天敵使用実例
黒木修一
樹勢が安定している養液栽培のバラでは、栽培環境から周年的に天敵を使用できる。ハダニに対しては飢餓に強いミヤコカブリダニ製剤から使用し、発生状況によってチリカブリダニ製剤を使用する。このとき、「天敵の巣」となるものの存在が重要であり、この巣により土着天敵の活用と、農薬使用時の天敵の生存も可能となる。必要ならば躊躇せず化学農薬を使用するという、ある意味では雑な天敵の使用で成果を得ている。
研究の紹介:トマトの低段多段組合せ栽培について
北 宜裕・広瀬一郎
夏期にも収穫が安定する低段密植栽培と冬春期に多収となる多段栽培とを周年にわたって的確に組み合わせた低段・多段組合せ栽培は,既設の栽培システムに安価な初期投資で導入でき,かつ多収となる日本型トマト周年安定多収生産技術である.
研究の紹介:UECSを利用した温室での湿度制御
安場健一郎
近年,注目されている温室内での湿度制御であるが,LANにより環境制御を実施するユビキタス環境制御システム上で構築した研究事例に関して紹介する.
研究の紹介:水稲育苗箱を利用した養液栽培装置の開発
松田眞一郎
全国2位の水田率を誇る滋賀県ならではのアイデアで、既存の水稲育苗箱を利用した「苗箱らく楽培地耕」の装置の概要が紹介されている。開発過程における土耕との比較データでは、トマトでは収量を改善できなかったものの、キュウリでは生長が増大し、メロンでは1果重も増加するという成績を収めている。水稲育苗ハウスの遊休期間を利用した簡易・低コスト技術としての確立を目指した取り組みが紹介されている。
連載~オランダトマトの多収化を探る~:施設・栽培技術向上による多収化
東出忠桐
オランダのトマト収量は1980年代では約30 t/10a/年であるが、2000年代には60 t/10a/年以上となっており、多収化が著しい。オランダにおける多収化の理由としては、まず、施設の性能および栽培技術の向上が大きい。具体的な要因としては、1)温室透過率の向上、2)ロックウールシステム、3)ハイワイヤーシステム、4)CO2施用および5)コンピュータによる環境制御の導入があげられる。各技術と乾物生産の増加について説明する。
新製品紹介:顕熱熱交換機による冬季ハウスの除湿換気扇
小関将充
08年秋、(株)イーズは重油高騰を受け、高対候性と高効率を両立させた画期的な施設園芸用ヒートポンプの発売とともに農業業界に参入した。施設園芸ハウスのニーズに応えるべく、除湿換気扇「アグリmoぐっぴードライFAN」を09年10月に発売した。
冬季のハウスには、従来の建物にはなかった除湿のニーズが存在する。顕熱熱交換機を用いることで、換気による除湿や従来の除湿機(冷房除湿)と異なり室温低下をできるだけ抑えながらハウス内の湿度を外気と同じ湿度にまで除湿することが可能となった。
動力はファンのみのため消費電力も少なく、既存の除湿機と比較してランニングコストも抑えることができる上、熱交換機の構造もシンプルなので、メンテナンスは水洗い程度である。
生産者の協力で得られたデータでは、およそ15%程度の湿度が低下した。さらに、湿度対策と比較して燃料消費が少なくなるデータも得られた。
新製品紹介:フレーム組み込み型 液肥混入システム「ミニシステム」
田川不二夫
フレーム組み込み型液肥混入システム「ミニシステム」は、液肥混入機・フィルター×2・電磁弁×2と、それらを制御するコントローラー一式がセットになったユニットです。特徴としては、パイプフレーム組み込み型ということから、そのまま現地に持ち込み、設置可能であり、給排水を接続することで、すぐに使用できるという手軽な構成になっています。
新製品紹介:高光度LED補虫器「虫とりっ光」
鈴江光良
安全性に配慮したコンセプトに適う商品開発過程に得られた基礎データの一部を紹介し、LEDを利用した捕虫器「虫とりっ光」の特長が紹介されている。
特集〜もう一度学ぶ病原菌の話〜:水耕病害の予防と対策
東條元昭
栽培コストの削減や環境への負荷低減などのニーズの変化に対応するため,培養液循環方式のシステムが導入されてきた.それにともない発生した病害の発生動態と、それらに対する対策について紹介する.
特集〜もう一度学ぶ病原菌の話〜:最近発生した養液栽培の病害事例について
岡田清嗣
養液栽培は,清浄な栽培環境で塩類集積や土壌病害など連作障害に悩まされることなく,安定多収高品質な農産物生産が営まれるが,一旦病原菌が侵入すると,培養液を介した病原菌の伝染速度の速さ,栽培資材や固形培地への病原菌の蓄積は,土耕栽培以上に厳しい被害をもたらす.ここでは,最近発生が確認された養液栽培における新病害の発生事例について紹介し,栽培上の参考にしていただければ幸いである.
特集〜もう一度学ぶ病原菌の話〜:鉢花類のプールベンチ栽培におけるピシウム病害について
渡辺秀樹
鉢花類のプールベンチ栽培では、ピシウム属菌をはじめとした水媒伝染性病原菌による被害が問題となっている。ピシウム属菌は苗や培土、水によって施設内へ侵入する危険が高く、これらをできる限り抑止することが重要である。花き類については登録薬剤も限られており、発病してからでは被害が甚大になりやすいので、初期防除の徹底、過湿防止、循環養液中の菌密度低減、肥培管理、ほ場の衛生管理など総合的な防除対策により被害リスクを最小限度に軽減する必要がある。
特集〜もう一度学ぶ病原菌の話〜:光質利用でイチゴうどんこ病を防ぐ
神頭武嗣
栽培コストの削減や環境への負荷低減などのニーズの変化に対応するため,培養液循環方式のシステムが導入されてきた.それにともない発生した病害の発生動態と、それらに対する対策について紹介する.
特集〜もう一度学ぶ病原菌の話〜:青果物に付着する微生物とその制御
泉 秀実
青果物に付着する微生物の汚染度を野菜と果実で比較し、腐敗原因菌と食性病原菌(食中毒原因菌)を対象にして、その潜在的汚染原因を栽培環境および収穫環境の接触物から推定した。これらの汚染源から青果物への微生物の移行を防ぐための微生物制御法も併せて紹介する。
連載ーやさしい環境計測ー:第2回 湿度のはなし 相対湿度と飽差
岩崎泰永
連載の第2回目は、湿度の計測とその管理の重要性について、湿度の意味、測定方法がわかりやすく紹介されている。その上で、湿度を計測することがなぜ重要なのかをデータを引用して紹介し、病害管理の考え方だけでなく、植物生理的にも重要である点が示されている。
質疑応答:技術士とはどういう資格ですか?
岡 准慈
技術士とは,文部科学省所管の法定の登録を受け,技術士の名称を用いて科学技術に関する高度の専門的応用能力を必要とする事項についての計画,研究,設計,分析,試験,評価またはこれらに関する指導の業務を行う者のことです.技術士になるためには,技術士第2次試験に合格し,登録を受けることが必要です.ここでは,技術士試験制度を紹介し,養液栽培に携わる指導者の方々が技術士資格にチャレンジすることを薦めています.
書評:古在豊樹編著 太陽光型植物工場(オーム社)
斉藤 章
多方面から注目を集めている植物工場の存在意義について,数種類ある生産システムの中の太陽光型植物工場を中心に述べている.植物工場において,根幹技術のひとつとなる統合環境制御の考え方と技術的課題,更には植物工場が貢献できる食糧問題・環境問題の解決についてわかりやすく説明されている.本書は,植物工場だけではなく,広く施設園芸での植物生産を物理学的,工学的に理解するのに大変参考になるお薦めの一冊である.