日本養液栽培研究会

ニュースレター1号(2022年6月)

論文紹介

【紹介する論文タイトル】わが国の施設園芸・植物工場と養液栽培の課題

 論文著者:塚越 覚

 論文著者の所属:千葉大学 環境健康フィールド科学センター 准教授

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P4-7

〔要約〕

 日本での養液栽培や植物工場は徐々に増えているものの非常に少ない。人材育成に力を入れ、植物工場で開発された技術を農家に取り入れ、日本の施設園芸の強化に努めている。養液栽培や植物工場の研究分野では、栽培品目の増加、培地の改良、高品質高収量で病害抵抗性を持つ専用品種の育成、ロボットの利用など、開発がどんどん進んで高い技術にさらに磨きをかけている。その成果を十分発揮出来るよう、普及にも力を入れる必要がある。

【紹介する論文タイトル】ゼロエミッション型養液栽培の考え方と少量培地耕の特徴

 論文著者:切岩 祥和

 論文著者の所属:静岡大学農学部 生物資源科学科 教授

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P8-13

〔要約〕

 養液栽培の排水に残る肥料は環境負荷の原因である。環境にやさしい養液栽培をするため、施肥の改善が求められる。作物の養分吸収には、品種、水ストレス、CO2等が影響しており、この特性に合わせた施肥が重要である。固形培地耕の給液はECを指標にする濃度管理による施肥が一般的だが、調整が難しい。一方、量管理による施肥は、植物が必要な養分だけを供給できるため、排水中の残存肥料を減らし、環境にやさしくコスト削減にも貢献する。また、少量培地耕もエコな栽培方法であり、生育状態や栽培環境に合わせた多頻度潅水が有効である。

【紹介する論文タイトル】給液制御システムと環境制御システムとの連携利用

 論文著者:新間 恵太

 論文著者の所属:イノチオアグリ(株) 設計開発部

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P14-18

〔要約〕

 日本の施設園芸では給液システムと環境制御システムが独立しており、管理に手間がかかっていた。そこで欧州にならいそれらを連携させた日本製の新しいシステムが開発され、植物の地上部と地下部の環境データを一括して制御可能になった。近年はIoT技術の進歩により、制御システムの中でも安価なものや高性能なものなど種類が豊富にあり、生産者は自分の生産スタイルに合わせて選択できる。

【紹介する論文タイトル】ロックウール培地の利用の現状とリサイクルの動向

 論文著者:北島 滋宣,多田 亘児

 論文著者の所属:日本ロックウール(株)

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P19-22

〔要約〕

 養液栽培の培地として用いられるロックウールは、排水性がよく、繊維方向を用途で使い分けでき、養分を吸着しないため施肥コントロールしやすいといった特徴がある。最近は袋に包まれたロックウールのベッドを1作ごと交換する方法が主流である。主原料は製鉄の副産物であり産業廃棄物として処理されることが多いが、処理費用が高騰する場合がある。専用のリサイクル工場があるが、分別や回収コスト面で課題がある。また、アスベストと誤解する人が多いため安全性の周知のさらなる徹底が必要である。

【紹介する論文タイトル】ヤシガラ繊維培地に適した給液管理法

 論文著者:内山 真奈美

 論文著者の所属:トヨタネ(株) 栽培支援部栽培サポート課

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P23-28

〔要約〕

 養液栽培の培地として利用が増えているヤシガラは、適度な保水・排水性があり、分解されにくく長期使用が可能だが処分しやすいという利点がある。ヤシガラ培地の灌水管理は、植物の蒸散に合わせてタイミングなどを制御し、培地内のEC濃度を適度に調節することが大切である。灌水方法としては日射比例灌水が有効である。初めて使う時には、定植前にあらかじめ培地に肥料を与え、吸着させておく必要がある。

【紹介する論文タイトル】単肥配合プログラム「ベストフレンド」の機能と生産現場での利用法

 論文著者:佐伯 知勇

 論文著者の所属:大分県農林水産研究指導センター 農業研究部土壌・環境チーム

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P29-34

〔要約〕

 養液を調整するための単肥配合の計算を自動で行うために、単肥配合プログラム(ベストフレンド)が利用されている。パソコンのwindows 上の表計算ソフトに、タンク容量、希釈倍率、原水の分析結果を入力し、目的の処方を指定すると、自動で単肥の必要量を計算できる。量的管理に対応した改良版プログラムもあり、追肥専用の処方も作成できる。プログラムの利用により肥料コストを大幅に削減可能で、コストを半減できた事例がある。

【紹介する論文タイトル】トマト・パプリカ生産における培養液の排液利用システムの運用の実際

 論文著者:阿部 淳一

 論文著者の所属:(株)デ・リーフデ北上 総務部長

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P35-37

〔要約〕

 培養液の完全循環方式では、回収した廃液を分析・消毒し、新たに水や肥料を調合して、再び培養液として給液する。肥料代や水道代を削減できて環境に優しい方法だが、分析と消毒、設備にコストがかかる。実際、定植後すぐには排液を再利用せず、成長に合わせて徐々に排液利用率を上げる。分析はオランダで行うため、新たな配合ができるまで時間を要し、状況に応じた配合が難しい。今後は日本での分析実施や生育初期の排液利用について検討が必要である。

【紹介する論文タイトル】次世代に向けたキュウリの産地形成における養液栽培の役割

 論文著者:原田 正剛

 論文著者の所属:徳島県南部総合県民局 農林水産部〈美波〉 課長補佐

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P38-42

〔要約〕

 長らく続けられているキュウリ栽培が人口減少により衰退してきた徳島県海部郡では、キュウリの養液栽培で地方創生を目指している。施設整備を進め、栽培のマニュアルを作り、新規就農者のために勉強の機会を設けた。企業と協力して養液栽培の導入を進め、関係者の情報交換の場としてサミットの開催も行なった。調査や検討をしながら栽培環境の調整を重ねた結果、収量は増加傾向となり、養液栽培は注目を集めている。

【紹介する論文タイトル】水耕および固形培地耕で発生しやすい病害と対策

 論文著者:渡辺 秀樹

 論文著者の所属:岐阜県農業技術センター 病理昆虫部

 雑誌名:施設と園芸

 193号・掲載ページ P51-55

〔要約〕

 水耕栽培で発生しやすいのは、疫病やべと病、立枯病である。なかでも立枯病菌は原水や持ち込み苗から侵入し、夏場の発生が多い。対策として、清浄な地下水や消毒済の種子を使うこと、培養液温度を25℃以下にすること、次作前に洗浄や熱殺菌することがあげられる。一方、固形培地耕で発生しやすい萎凋病の病原菌も、持ち込み苗から伝染する。対策には耐病性の接木苗の使用や、次作前の培地交換や熱消毒が有効である。